先日、好きな作品のコラボ化粧品が出た~!って大喜びしてたんですけど、そのコラボでピックアップもされてたブラックパンサーを演じられてた、俳優チャドウィック・ボーズマンさんが亡くなりました。
まずは長い闘病と精力的な俳優業を並行して生活しておられた彼の、ご冥福をお祈りします。
どうぞゆっくりお休みになってください。
— Chadwick Boseman (@chadwickboseman) August 29, 2020
情緒がはちゃめちゃになっているんですが、ただのmcuファンが追悼としてできるのは、彼が遺した素晴らしい作品の鑑賞と布教くらいだと思うので、ブラックパンサーの布教文を書きます。辛み悲しみ悼みを込めてたら、6,000字も書いてしまった。
ブラックパンサー今まで知らなかった方は、追悼とかそんな気持ちで観なくていいと思う。いや、知ってる人も、きっとそんな風に観なくていいと思う。
ただただ純粋に、彼が命を吹き込んだ、素晴らしい作品を楽しく観てくれたら、それだけできっと彼は喜んでくれると思う。
1.mcuって何?
前の記事でもちょっと説明したんですけど、マーベルというのはアメコミ雑誌(レーベル)のひとつです。少年ジャンプみたいな。
で、マーベルにはいっぱいヒーローがいて、それぞれ違う特殊能力を持ってて、それぞれが己の使命や目指すもののために戦ってるんですよ。
ルフィは海賊王になるために、ナルトは火影になるために、……一護って何のために戦ってたっけ……母の仇とかヒロイン救出とか町の平穏とか色々なもののためだな……烏野高校も鬼殺隊もみんなそれぞれの目標のために歯を食いしばって戦っているので、そういうことです。
マーベルヒーローが面白いのは、能力や使命がそれぞれ違えど、基本的には同じ「現代社会(この銀河系)」にほぼ同時代に存在しているという設定です。
ジャンプでいうと、「木の葉の里も空座町も仮想大正時代の鬼が跋扈する世界も、グランドラインの中にある島のひとつか一地方です。みんな普段は絡まないけど、風の噂で海賊王目指してる十億越えの麦わら帽の海賊が新世界荒らしに来てるのは知ってるかな~」みたいな感じですね。
なので、有事の際にはみんなで集まって手を取り合って巨悪に立ち向かいます。この有事の際に集まった即席ヒーローチームを「アベンジャーズ」と呼びます。(多分アベンジャーズというタイトルの方が、聞いたことある方多いだろうな)
要は大乱闘ハリウッドブラザーズだね。
アベンジャーといえば某ソシャゲでクラス(役職)として実装されてるのでご存知の方もいらっしゃると思いますが、基本的には「やられたらやり返す!倍返しだ!!」という意味なんですけど、このネーミングやチームの存在意義的に「自分たちは攻撃を受けて犠牲を出してからじゃないと戦いにいけない!クソッタレ!」と葛藤するヒーローたちのエピソードもあってエモエモなのでおすすめです!!
で、このマーベルヒーローたちそれぞれが活躍している単独映画や、アベンジャーズとして全員で戦いにいく映画を全部ひっくるめて、mcuと呼びます。
マーベル・シネマティック・ユニバースの略。「マーベルの実写映画世界線の作品群」のこと。
マーベルは「※並行宇宙でのひとつのできごとです!」的な作品作りをよくするんですよね。こういう世界もあったかもしれないよ、解釈違いの場合はパラレルスルーよろしく、みたいな。ルフィがエースとサボとゴミ山で平和に暮らしてた世界線もあったかもしれない……というのが公式漫画であったりする。アイアンマンとキャプテン・アメリカが結婚する世界線もあるし……。
なので、「これは映画世界線の物語群ですよ」というのをわかりやすくするために、「シネマティック・ユニバース」という言葉が使われてるんだと思います。
2.ブラックパンサーのあらすじ
前置きが長くなりましたが、今日は我らが陛下の布教なので、ブラックパンサーの話をします。
主題としては、王位継承戦・王(ヒーロー)の務めは弱きを守ること、の2本柱です。
ブラックパンサーの主人公ティ・チャラは、アフリカのとある弱小国ワカンダの国王です。ブラックパンサー単独映画の少し前に先代の父王が急死してしまったので、急遽王位を継ぎました。
ワカンダの王は代々超人的な力を得られる秘密のハーブで肉体強化をして、ヒーローである「ブラックパンサー」として人々を守る役割をしています。ワカンダの王は、権力的にも、物理的にも強大な力を持っているということですね。
このワカンダは地球上でもっとも高性能なヴィブラニウムという金属が採れるので、めちゃくちゃ高度な科学技術を持った文明国家なんですが、力は争いを生むという意識の下、国際的には「アフリカの貧困国」として隠れ住んでいます。高度な科学技術でステルスしながら暮らしています。
ある日、昔ワカンダからヴィブラニウムを盗み出した一派と思われる奴らが、ロンドンの博物館を急襲。博物館からワカンダの歴史物を盗んだばかりか、どうもヴィブラニウム製の武器を振り回しているということで、ティ・チャラ自ら一派の確保に向かいます。
そこで出会ったのは、ワカンダ国民であることを示すものを身に着けた青年(唇の裏の入れ墨、ある王族の遺品など)
彼はティ・チャラの従兄弟であり、自分の父は兄弟であるティ・チャラの父(先王)に殺されたのだと告発します。
亡き父の遺志を継いで、ワカンダを開けた文明国家として黒人の地位向上を目指したい従兄弟。亡き父が先祖代々守ってきた伝統は全て正しかったのかどうか、再考しなければならない局面に来たティ・チャラは、もがきながら従兄弟と王位を争うことに――。
3.ネタバレなしおすすめポイント
まずは何といっても、ブラックパンサーのかっこよさですね! パンサーなので猫耳付きスーツ、爪で引っ掻くのがメイン攻撃、跳躍力こそ魅力!という感じなんですけど、戦闘シーンが肉体言語で語り合う系なので見てて楽しいです。
あと、「ブラックパンサー」は王位とセットなので、主人公である陛下(ティ・チャラ)も、従兄弟であるキルモンガーも、ブラックパンサーの格好して戦ってくれます。2Pカラーのヒーローとか、ロマンやろ!!
あと、ワカンダには女性兵軍団がいて、陛下の近衛兵やってるオコエという女性兵がいるんですけど、この方の戦闘がまたとっても美しいんですよ~~!!!オコエが戦ってくれるときの安心感よ~~~槍振り回す女ランサーみんな好きでしょ?
は??戦闘シーン大好きマンだが何か??
そしてヴィランがカッコイイんだよな~~~!キルモンガーはmcu屈指のベストオブヴィランのひとりなので、あのカッコよさ存分に浴びてほしい。
悲劇的な生い立ちではあるんだけど、自分の内に宿った復讐心と暴力性にとても自覚的なヴィランです。泣き落としで王宮に乗り込んでくるわけでもない。自身の王位の正当性を訴えはするけれど、きちんと伝統に則った方法でティ・チャラに挑んでくる、めちゃくちゃ誇り高いヴィランです。
このヴィラン、cv.ツダケンだから、吹き替え版もよろしくな。
で、そんなヴィランに負けじと歯を食いしばり、どうして自分が彼と戦わなければならないのか、きちんと自分の頭で考えて立ち上がれるティ・チャラのカッコよさマジでマジで最高なので、あの葛藤と選択を是非その目で確かめてくれ……。
自分が受け継いだ王の力とは? 弱き者を守るための、王として、そしてヒーローとしての力の使い方は、これで合っているのか? 守るべき弱き者とは、どこの誰を指すのか?
ティ・チャラが最後に選び取ったもの、ワカンダの夕日のように世界一美しいんだよな~~!!
あと、ティ・チャラに反発してるくせに、ティ・チャラの敵が現れたら、敵の敵は俺の敵!!!みたいにしてくれるツンデレゴリラエムバク、みんな絶対大好きなので、エムバクはもう存在がおすすめです。
それから、絵面的なところが好きな人にとっては、アフリカの民族的(フォークロア調?)の衣服装飾が科学技術の粋を集めた街並みや部屋の中で共存してるという、近年稀に見る独特なSFっぽさ、めちゃくちゃ楽しいと思います。絵描きさんとか、色んなデザイン、色味に興味ある人には、流し見してるだけで楽しいんじゃないかな?
伝統的な王位継承の儀式やダンスの映像なんかは、バーフバリのような、異文化の美しい絵面って感じで、とてもオシャレで魅力的です。
ストーリー展開にうるさい人も是非安心して見てくれ。
ティ・チャラの人物造形やワカンダの価値観描写も上手いし、王位を賭けた決闘でティ・チャラのピンチもあるし、最終決戦に向けて仲間たちと立ち上がる熱さもある。また、散りばめられたキーワードや、前半で出てきた構図を拾った対比展開も美味しい。見ごたえたっぷりです。
私はキルモンガーに感情移入しがちなので、彼との決着が若干腑に落ちてないところはあるんですけど、あれはあれでひとつの美しい終わりなんだろうな……。
あと、洋画やアメコミ系の作品って、見慣れてないと「文脈」を拾うのが難しいところがありますよね。
ゲームしない人には、「アタッカーにバフ盛って殴る」というベーシックな文脈が通じない、という話twitterでバズってましたけど、そういう感じ。ここ笑うところなのか、今のどういう真意なのか、みたいなのって、見慣れてないと難しい部分がある。
「ブラックパンサー」はあんまりこの複雑な「文脈」ないです。
というのも、主人公のティ・チャラがmcuヒーローには珍しい「全くジョーク言わないマン」(絶滅危惧種)なんですよ。
各所で、「おいおいmcuといえば、軽口マシンガントーク口から先に生まれてきた野郎がヒーローになる条件じゃなかったんか???」とネタにされるくらいです。ジョーク飛ばされても、「スンッ……」て顔して黙って聞いてる陛下が逆にめちゃおもろいので、是非観てほしい。真面目なんだよ陛下はよぉ……。
4.ネタバレありおすすめポイント
この映画何が面白いって、主人公が過ちを認めるんですよ。
先祖代々自分たちがやってきたことは間違っていた、と声高に言うんです。なかなかこういうヒーロー像珍しくない? 信念を貫き通すヒーローはよく見るけど。
ブラックパンサーの名言は色々あるんですけど、(「賢き者は橋をかけ、愚かな者は壁を作る」とか)私は何よりも、陛下が先王に向かって「間違ってた!先祖の教えは全部!!」と噛みつく声が、姿が、今にも泣き出しそうな表情が記憶に残っています。
家族の教え、小さい頃から身に染みてきた生活習慣や価値観って、それ以外のものが存在するとはなかなか思えないですよね。カレーやみそ汁の具とか、洗濯や掃除の頻度とか、そういうのって、慣れ親しんだものが唯一絶対のような先入観があるというか。
自分の中にあるそういう価値観を壊す、誤っていたと認める、別の主義主張を受け入れるというのは、めちゃくちゃ大変なことだと思うんですよ。特に、それが誰かを傷つけたりしてるなんて、夢にも思わなかった事柄なんて尚更。
ティ・チャラは、自分たちの国が世界中のどこより進んだ技術文明を持っていること、それを争いを生まぬようにと隠していることに、何の疑いも持ってこなかった。世界の歴史的に、黒人は差別を受けて長い苦難を耐えてきたけれど、そういう隣人を下手に助けて世界中と全面戦争になるよりはと、ワカンダは閉鎖的で秘密主義を貫いてきた。
特にワカンダにはヴィブラニウムがあるので、その資源を狙われるのも御免だし、ヴィブラニウムで外国を蹂躙することも良しとはしてこなかったんですよね。そこの懸念はめちゃくちゃわかる。
だけど、彼の前に現れた従兄弟は、幼少期にワカンダから締め出され、親を失い、ひとりぼっちで黒人差別の色濃く残る社会に取り残された。そしてその従兄弟は、今大きく国を揺るがし、大規模な争いを生もうとしている。そのモンスターを生んだのは、自分たちワカンダが先祖代々やってきた「隣人を見捨てて貫く秘密主義」ではないのか?
大体、肌の色が同じなだけのワカンダ国民でもない隣人は見捨てる方針でやってきてたけど、ワカンダ王室の血を引く子供にそんな仕打ちをするって、もう「隣人を見捨てる」どころではなくなっていないか? じゃあどこまでは見捨ててよくて、どこから見ぬふりしないでおくんだ? という疑念と葛藤。
その果てに、ティ・チャラは「間違ってた!先祖の教えは全部!」と意思表明をするんです。それが思考放棄の末の保守的なやり口だったことまで認めて、「もう逃げない」と立ち上がる。
自分の信念を最後まで貫くヒーローの姿は美しい。そのひたむきさに胸が熱くなったことも多々ある。
一方で、「ブラックパンサー」のように、これまでの間違いを認めて、きちんと思考して、方向転換してでも戦おうと立ち上がるヒーローって、そんなに多くないよね。
そういう意味で、「ブラックパンサー」はめちゃくちゃ斬新かつ新鮮なヒーロー像じゃないかと思います。
余談ですけど、アイアンマンにもこういう要素があって、私はヒーローとしてはアイアンマン推しなので、おすすめポイント書きながら趣味ぶれね~~~ってひとりで笑ってました。間違ってたやり方を認めて、立ち止まって考えて、方向転換して、全力で責任を取ろうと奮闘する人の美しさに、何度でも心打たれてしまうよ……。
5.ほかおすすめポイント
ブラックパンサーの名台詞はいくつもあるけど、やっぱりアガるのは「イバンベ!」と「ワカンダフォーエバー!」ですね!
ラグビーで踊られる「ハカ」ってあるじゃないですか。少し前までは「ウォークライ」って言われてたやつで、元々はマオリ族の戦士が戦いの前に足踏みやハンズクラップで士気を上げるための舞踊ですね。
ワカンダのみんなにもああいうやつがあるんですよ!!!(ブラックパンサーでは出てこなかったかもしれない……後続作品が初出かも)
「イバンベ」というのは、「最後までやり遂げろ」とか「敵を吹っ飛ばせ」みたいな意味合いらしいんですけど、
ティ・チャラがコーレスしてくれます。
ワカンダのみんなが討って出る場面で、ティ・チャラ「イバンベ!」みんな「イバンベ!」ティ・チャラ「イバンベ!」みんな「イバンベ!」って集まってきてくれるんですよ!!!!
めちゃくちゃ熱くないか?????オタクはコーレスと、味方の軍勢が続々と集まってくる場面が大好きな生き物なので……。
是非あのコーレスでテンションぶち上がって頂きたい。
他にも、
- アフリカのいち小国の物語なので、出演者のほとんどが黒人俳優(黒人差別に関するテーマも孕んでいる)
- スタッフも黒人の精鋭たちを集結(人種による職業不均等に一石を投じた)
- 全体的にデザインや音楽がオシャレで高評価されている
- 興行収入がタイタニック抜いた
などなど、様々な問題提起だったり、ものすごい評価だったりと、世界的にも注目された映画だそうなんですけど、そういう詳しいことは他の方に任せます。
mcuのいちファンの私から言えることは、「陛下マジで素敵だから是非見てくれ」ってことだけです。
チャドウィック・ボーズマンさんは、この単独映画より前にご病気が発覚して、闘病しながら撮影に臨まれてたそうです。
全然そんなこと感じさせない、とても美しい肉体美と、めちゃくちゃカッコイイ戦闘シーンと、ティ・チャラの魅力を存分に伝えてくれる演技で、たくさん楽しませて頂きました。
本当にありがとうございました。どうぞゆっくりお休みください。
故人を偲ぶのに、役と混同したこと言うのもどうかと思うけど、いちmcuファンの私はブラックパンサーを通した彼しか存じ上げないので、それも踏まえてこれを追悼とします。
ワカンダフォーエバー!