2016年の読書記録!
と言う名の、面白かった本備忘録!
人様の本棚とか、おススメ本レビューとか見るの大好きなので、自分もちょっとやってみようと思っただけです!
1.「残り全部バケーション」伊坂幸太郎
伊坂作品はとっても大好きです。小説では、唯一作家買いしてるかもしれない。学生時代に伊坂幸太郎を勧めてくれた母に大感謝。
伊坂作品は、とっても個性的な作品ばかり。何が個性的って、キャラが強烈。一風変わった、有体に言えば「社会不適合者」的な性質の人間が、魅力的かつ独創的に活躍するものばかり。
ただ、作風には2通りある(と、私は思っている)。
ひとつは、強盗、暗殺者、死神、当たり屋、みたいな、いかにも「風変り」な職業の人たちの話。
もうひとつは、逆にとても一般的だけど、クラスに一人くらいこんな変な奴いたよな、みたいな一般的な変人の話。
「残り全部バケーション」は、W主人公っぽい側面があって、1人は風変わりで、1人は一般的な変人です。
2人組で当たり屋をやってた先輩後輩がいたんだけど、後輩の岡田が「足抜けしたい」って言い出して、先輩の溝口は「じゃあ、適当な番号の相手にメールを出して、そいつと友達になれたら辞めてもいいぞ」って条件を出す……、っていう話です。
冒頭ですぐに出てくるからもう書いてしまうけど、この岡田は無事に汚れ仕事から足を洗えるんですよ。
その時、無職だって人に説明する時に、「人生残り全部バケーションだよ」って言うんですよね。
残り全部バケーション。良い響き!
飄々としてて、それなりに優しくもあるけど、根っからの良い人ではない岡田と、威張り散らしてて適当で無責任だけど、妙に情に厚い溝口さんの、凸凹友情物語。
仕掛けがどんどん転がってつながっていくストーリーは、まさに伊坂幸太郎の真骨頂だし、最後の引きは最高にバケーションの始まりを予感させます!
読んだ後ににっこりした。純粋に好きな作品でした。
「飛んでも八分、歩いて十分。二分しか変わらなくても、飛べるなら飛ぶんだよ」溝口さんは最高だ。
2.「神様の裏の顔」藤崎翔
元芸人さんが書いた小説ということで、ぶっちゃけあまり期待してなかったんですけど(すみません)、キレイに幕を引いてくれたなあ、という感じ。
良い意味でコントっぽい、舞台上でやる劇のような、小気味いい調子の物語。
「神様」と評されるほどの元教職の男性が亡くなって、そのお葬式に集まった、「神様」にお世話になった人たちが故人に思いを馳せていると、その「神様」には裏の顔とも言うべき疑惑があることが判明して……、というお話。
どんどん疑惑が膨らんでいって、どんどん話が鎮静化して、という物語の緩急と二転三転する話運びは、本当に劇を見ているかのよう。
最後に明かされる仕掛けを見ると、もう一度冒頭から読み直したくなるような、作品でした。
人間って少し疑念が浮かぶと、悪い方へ考えがちだし、場の空気に流されがちになるんだなあ、というある種の怖さを感じる物語でもあったので、何度も読み返したい作品ではないけれど(笑)
芸人さんの作品だと侮るなかれ(侮っていたのは私だ)小説ならではの叙述トリックが火を吹きます。
どんでん返しや、上手い仕掛けで二転三転する疑惑に、驚いたり翻弄されたい時には、とても良い刺激になる作品でした。
3.「この闇と光」服部まゆみ
うす暗くて重たくて切なくて寂しい気分に浸りたい人には、超おススメ。
メリーバッドエンド(周りから見るとバッドエンドだけど、本人たちにとってはハッピーエンドなジャンル)とは微妙に違うんだけど、ハッピーエンドともバッドエンドとも言いづらい、とても後味の悪い物語です。まあ、世の中ってそういう解決にしかならない問題が、たくさんあるよね。
盲目の主人公は、音楽や文学を嗜むお父様に大事に育てられたお姫様。隣国の怖い兵士たちの監視下に置かれながらも、お父様とわずかな平穏を大切にしながら、すくすくと成長していくが……というお話。
何とびっくり、こんな設定ですけど、現代ものです。
目の見えない主人公視点で語られるので、姿かたちの見えない不穏感や、何とも言えない薄気味悪さが延々と振りまかれています。
後半の真実が明かされる辺りで、「してやられた!」となる作品です。
……ではあるんですが、女性が読むと、中盤で「あれ?」ってなると思います。男性も、察しの良い人は気づくかと。
結構こう、共依存とか特殊性癖的な匂いもするので、何でも大丈夫な方のみお進みくださいって感じではあります。
あまりハッピーな気分にはならないので、これもあまり読み返しはしないかも(笑)
褒め言葉として、気持ち悪い作品だった。
4.「サブマリン」伊坂幸太郎
私は一年に何冊伊坂幸太郎を読んでるんだよ~~~好きだ!!
これは私が伊坂作品で一番好きな「チルドレン」という作品の続編です。
続編だけど、一冊完結してるから、普通に読めます。
一般的な変人の方の話。
家庭裁判所調査官っていう、大体非行少年たちのやらかしたことを調べたり、事実を明らかにしたり、たまに助けたりする、お堅い職業と思われがちな仕事をしてるのに、超ぶっ飛んでる子どもっぽい適当な大人・陣内さんの大活躍物語。
「銀魂」の銀さんが現代社会に生きてるような人なので、駄目なところいっぱいあるけど締めるところは締める男が、あれこれと人の世話焼いたり、自分の信念に基づいて戦う話が好きな人にはたまらないと思います。
今回は無免許で交通事故を起こしてしまった少年にまつわる話。昔、友人を交通事故で亡くした少年が、成長してから加害者側に回ってしまった。少年たちの罪と罰を、陣内さんはどんな風に考えて、走り回って、何をしてやるのか。
お手本にはできないけど、「こんな大人もいるなら、まだまだ世の中捨てたもんじゃねーな」って少年少女が思える、陣内節がさく裂します。
緩くて適当で負けず嫌いで屁理屈こね回して引き際を見誤るけど、陣内さんは超カッコいい。
「事件を起こした奴を厳しく罰しておしまいにすりゃいいんだ。でもな、何でもかんでも機械的に罰してくわけにもいかねえんだよ。おまえみたいなのもいるからな」
陣内さんのこの台詞の重さがわかるから、何度でも読み返して、何度でもこの台詞で泣きたい。
5.「仮面病棟」知念実希人
タイトルと表紙の装丁デザインに惹かれていったら、あらすじが面白そうで買ってしまった。
主人公は新米医者の速水先生。バイトで来てる病院で当直をやってたら、拳銃を持ったピエロが押し入ってきた。「この女を治療してくれよ、先生」強盗したついでに撃った女の治療をさせ、朝まで病院に籠城すると言うピエロ。通報か、脱出か、入院患者たちの安全か……悩める速水先生は、病院内を探るうち、その病院のある重大な「秘密」に気づいてしまう……、というお話。
序盤は、速水先生も言ってるけど、ピエロの行動が短絡的で、結構怖いんですよね。おばかなので、上手く誘導できそうな感じもあるけど、拳銃持ったまま衝動的に行動するので、「次こいつ何するんだ……」ってハラハラしながら読んじゃう。
次第に閉じ込められてる病院自体の謎が浮かび上がってきて、ピエロに監禁されてることを抜いても、「このままここにいて大丈夫なんだろうか?」っていう、焦燥感に駆られます。医療不正問題的なところも絡めてあるので、「チーム・バチスタの栄光」とか好きな人は楽しめると思う。
ただ、中盤でひとつ、とある事件が起こった時に、「ここでこの行動できたの、こいつしかいねーよ……」って結構派手に気づけてしまって、これはミステリー得意な人だとかなり謎解きが楽なんじゃないかと思います(展開の先読みができない私があっさり気付けるくらいには、ヒントが簡単だった)
割と早い段階でそれに気づいてしまったために、後半の「主人公的にはまさかの展開」にあまり驚けなくて、(実はちなみに、物語は主人公が生き延びて警察から事情聴取を受けているシーンから始まるので)「ああ、やっぱりね……。で、主人公は生還するんでしょ?」ってなってしまったのがちょっと残念だった。
でも、ミステリーでたまによくある、登場人物の上澄みだけの設定とか、ふわっとした理解不能な事情とかが全然無くて、どのキャラクターにも感情移入できる、良い作品でした。
主人公の速水先生マジ探索者兼少年漫画系主人公の鑑。
6.「帰ってきたヒトラー」ティムール・ヴェルメシュ
ドイツでは、義務教育の間にヒトラーやナチスについて詳しく学び、しかし一方でそれらを真似したりたたえたりすることは禁止されているようです。
この作品は、「そんな現代ドイツに、突然ヒトラーが蘇ったら」から始まる物語です。
原因も理屈もわからないけど、突然現代ドイツの空き地で目が覚めたヒトラー(当時の肉体で)。その知識や価値観はヒトラーがドイツを率いた当時のまま。さすがに彼を見かけた街の人たちも、本物とは思っていないので、彼をコメディアン(芸人)として扱います。
あっという間にテレビに出て演説なんかをかまし始めるヒトラーに、世間の注目は一気に集まって……というお話。
ヒトラーの秘書として働いてくれてるクレマイヤー嬢との心温まる交流や、ヒトラーを芸人の演技だと思い込みつつもあれこれと世話を焼いてくれるザヴァッキ青年とのやり取り、それからヒトラーの価値観・視点から見た現代ドイツの社会問題風刺なんかも相まって、なかなかに面白い小説です。
自分を助けてくれていた人たちはどこを探してもおらず、自分の知っている時代とはがらっと変わってしまった社会に、寂しさを覚えるヒトラー。しかし、確固たる信念のもと、ドイツをより良くしたい気持ちだけは貫くヒトラー。
突き詰め、真面目に考え、まっすぐ突き進もうと演説をするさまは、「この人はもう少し他者に対する排他性や攻撃性が無かったら、良い為政者として名を遺したのかもなあ」と思ったりもしました。
原作者が非常に深くヒトラーのことを学んでいるので、奥さんとの結婚生活は短かったとか、ヒトラーの秘書さんと従卒さんが結婚した(「私の執務室で2つの心が惹かれあった」)とか、ヒトラーの個人的なひととなりを垣間見ることもできます。
ドイツ本国でも、「タイムスリップもの」「コメディアンになった政治家」という側面で、どれくらいジョークにしていいのか(ヒトラーのことは、まるっと全部を深刻に考えるべきではないか)という議論が巻き起こったようですが、当時の情勢や現代の社会問題についての勉強という意味で、興味深い作品ではあると思います。
ちょっと文章がくどいというか、海外小説読み慣れてないと、かなり疲れる。
描写も何もかも長いし、ジョークがわかりづらいです。実写化されてるから、映画で見た方が物語がわかりやすいかもしれない。
余談ですけど、表紙のデザインがすごい。
1:9くらいの髪と、ちょび髭に模したタイトル配置で、ヒトラーだってわかるんだもん。
こんなに象徴的で、わかりやすい表紙って、なかなか無いよね。すごい。
意外と、読んだ本の感想を書こうと思ったら、感想を書きたくなる本をあんまり読んでないな、と自分の本棚を見返す良い機会になりました!
2017年は、もっと色々、ちゃんと本を読もう。