こないだツイッターで、「文字書きさんって、どうやって文章の勉強をしたのか教えてください」という旨のアンケートが回ってきました。
二次創作してる字書きさん、好きな記事を書いているブロガーさん、プロのライターさんと、字を書く人たちが多く回答していたように見受けられました。
- 文章を書くのって、簡単そうに見えますよね。
- 私に関して言えば、「小説の書き方」系の本やテキストは、ほとんど読んだことがありませんでした。
- 馬鹿だなと思うんですけど、そういうの読んだら自分の作風が駄目になりそうな気がしてたんですよね。
- 「スクリプトドクターの脚本教室」
- 限定的な人向けの、思考術指南本
- どんな人でもすべからく上手な物語が書けるようになる本じゃないってことです。
- 「この公式に当てはめる癖を付ければ、魅力的になる」
- 私の物語の作り方を認めてくれる本
- でもこの本は、プロット作るのが苦手な人用に書かれてるので、今までのやり方を否定されたりしません。
- スクリプトドクターのカウンセリング
- 本当にお医者さんのカウンセリングを受けたような感じです。
文章を書くのって、簡単そうに見えますよね。
日本語が喋れる人なら、大体さっくり書けそうな気がするし。
ある程度前後のつながりがちゃんとしてて、誤用がなければ、読める文章にはなるし。
でも、そこそこ文章を書くことに慣れてくると、気づくんですよね。
実際に物語やストーリーを書いたり、人に読ませるための文章になると、すごく微妙なレベルで読みやすい・読みづらい、文章の上手い下手があることに。
私に関して言えば、「小説の書き方」系の本やテキストは、ほとんど読んだことがありませんでした。
独学でそういうのを読んで努力してきた、白峰かなに色々と指摘されて改善してきただけで、自発的な努力をしてきたことがなかったんです。
経験値を溜めるという意味で、
- ひたすら何かを書く
- ひたすら何かは読む
みたいなことはしていましたし、学生時代は文芸部に入って定期的に締め切りを設定して書くこともしていましたが、あまり先人のノウハウを摂取するようなことはしていませんでした。
馬鹿だなと思うんですけど、そういうの読んだら自分の作風が駄目になりそうな気がしてたんですよね。
文章を書くとか、物語を作るっていうのは、色んな生活様式と同じく、長い歴史のある文化です。それこそ、1000年以上前から存在するし、1000年以上前のものもまだ残ってる。
「旬の食べ物は、その時期の体の悩みを改善する」とかと同じで、道理に則った経験則が残ってきてるはずなんです。
つまり、よく一般的に言われるような
- 起承転結がないといけない
- プロットを作らなくてはいけない
- オリジナリティはどうやって出すか
みたいな、うるせー! そんなんもう耳タコだよ!! みたいな当たり前っぽい話しか、「小説の書き方」テキストには載ってないと思ってたんですよ。
私は先生に細かい指導をされたようなこともないし、親が私の作品を見てあーだこーだ口出ししたりもしてこなかったから、小さい頃から割とのびのび書いてきました。
絵描きさんとかは、小さい頃に美術の先生や親にされた駄目出しが気になって、うまく描けないって話をよく聞きます。私はそういう経験がありません。
結果として、少々つじつまがあってなくても奇抜で面白いものが書けるのが、自分の作風だと思って育ってきてました(学生時代の恥ずかしい思い上がりということで、生暖かい目で見てやってください)
だから、「小説の書き方」テキストを見て、その通りにしたら、何かこう、自分ののびのびとした文章や発想に蓋をされちゃうんじゃないかって、何かそんな偉そうなことを恐怖してたわけです。
さすがに社会人になる頃には、汎用性があるからこそ受け継がれて残ってきてる先人の知恵を、どうして今まで無視してたんだ? って、ちょっとは興味を示すようになりました。
で、そんな私が、生まれて初めてくらいまともに読んだ、「小説の書き方」テキストが、これです。
「スクリプトドクターの脚本教室」
著者の三宅隆太さんは、脚本家で映画監督で心理カウンセラーで脚本学校の講師もされてる、スプリクトドクターです。
限定的な人向けの、思考術指南本
まず初めに、この本は万人向けじゃないということをお伝えしておきます。
どんな人でもすべからく上手な物語が書けるようになる本じゃないってことです。
物語の作り方にもやっぱり色々あって、キャラクターありきで話を作る人もいれば、世界観や書きたいシーンのために物語を紡ぐ人もいます。
全員が全員この本を読めば万事オッケーにはなりません。
文章中の言葉を引用すると、
この本は日本中に大勢いるにもかかわらず、これまで取り上げられる機会がほとんどなかった『窓辺』系作家たちを支援するための脚本指南書です。
(中略)
この「思考のクセ」を取り除きさえすれば、彼らの多くは「オリジナリティに溢れた魅力的な脚本」を書けるようになるのです。
―――『初級編』
技術的なところの指南というよりは、考え方を教えてくれる本になっています。
この「脚本教室」は、初級と中級の2冊が出ています。
初級は、盛り上がりのある物語が書けない人向けです。「基本的な起承転結を作るための考え方」や、「盛り上がりの作り方」や「初歩的な構成の話」がメインです。あと、「スクリプトドクターの仕事」に関しても触れているので、スクリプトドクターを目指している人にも向いています。
中級は、中編~長編を書くと失敗する人向けであり、プロット組むのが苦痛だったり苦手だったりする人向けです。「ガチなストーリーの作り方」について、深く掘り下げて書いてくれています。「主人公やサブキャラクターの目的・成長を、キレイに絡める方法」といった感じです。
どちらも、「ストーリー」「シナリオ構成」という単語に耳を塞ぎたくなる人向けの本になっています。
二次創作で文章上手くなりたい人には、(キャラや世界観は原作のものがあるので)まさにうってつけの本だと言えると思います。
初級も中級も、「これをすれば絶対うまくなる!」というよりは、
「この公式に当てはめる癖を付ければ、魅力的になる」
という内容が多いです。
そのため、プロットを組むのは嫌いじゃないけど、理論的な構成の仕方を勉強したい! みたいな人にも役立つと思います。
個人的には、中級が私のレベルに丁度合ってた印象です。
私の物語の作り方を認めてくれる本
上でも書きましたが、大体の「小説の書き方」テキストは、起承転結が~とか、プロットを~とか、大前提を書いているものが多いです。
全部のテキストに目を通したわけではないですし、読了こそしなかったものの、私も学生時代から幾度も立ち読みや流し読みはしてきました。
そこで、プロットを作りましょう、なんて話が出てくる度に、「つまり、プロットを書かずに、好きなようにだーっと書く私のやり方は、駄目なやり方ってことなんだ……」って嫌な気分になってたわけです。(そしてテキストを読むのをやめる)
そりゃプロが教える作り方なんだから、プロット作るのが大正解なんでしょうけど、自分が好きで得意でやってるやり方は全く考慮されず「こうしてね!」って言われても、気持ちよくはないです。
学期の途中で担任の先生が変わって、クラスのルール全部勝手に変えられるみたいな。会社がよその企業に買収されて、事務処理のやり方からPCのシステムから、全部まるっと変更されるみたいな。なんかそんな気持ち。
でもこの本は、プロット作るのが苦手な人用に書かれてるので、今までのやり方を否定されたりしません。
「こうやって書くのが好きですか? じゃあ次これを考えてみよう? それとそれ組み合わせたら、君のやり方の延長線上でプロットできるんだよ!」って、むしろ積極的に今までのやり方を伸ばしていってくれる指南書です。
著者は、脚本学校で脚本家の卵を育ててきた方であり、苦しんでいる誰かを助けられるよう心理カウンセラーの資格も取った方なので、指導方法が非常に柔らかいです。
「こういうタイプの人は、ここを伸ばしたら魅力的になる」「こういう考え方ができる人は、こう考えると作りやすい」「まずはあなたのこういう感覚を認めましょう。その上でこうしましょう」という指導が多く書かれています。
お蔭で読みながら、私のやり方は間違ってなかった! このまま工夫して、伸ばしていけばいいんだ! という安心感とやる気を育ててもらいました。
著者は中級編の前書きでも、
これまで多くの脚本学校で、〈構成術が得意なタイプの講師陣〉から「いいから黙ってプロットを書けよ!」と怒られつづけた結果、すっかり委縮してしまい、とんでもなく酷い脚本を書き上げざるをえなくなった『アマチュアのソフトストーリー派』の生徒を数え切れないほど見てきました。
(中略)
『アマチュアのソフトストーリー派』は、構成が得意なひとからみればなんてことのないストーリーやプロットというものを、自分の〈物の感じ方〉とは無縁の「謎めいた高圧的な存在」だと認識しています。
何故なら、彼らは他人の心への共感能力が高い代わりに、物事をシステマチックに捉えたり、因果関係を構築するのが苦手だからです。
という認識を語っています。
それな!!! って思った人も多いのでは?
こういうことをちゃんと捉えてくれている方が、あれこれ考え方を提示してくれるので、すごく勇気づけられます。
「こういう人たちは、主人公に対して檄を飛ばし、その目標や行動を応援するような気持ちで書いてる。OLが同僚と給湯室に籠もって、上司の悪口や社内の噂話に興じる感覚。『あんなダメ男といたら、A子も駄目になっちゃうよ! がつんと言ってやんな!』みたいな。そういう『展開意欲』『変化への願望』は、A子(主人公)にBという状態をCという状態へ変化させたいという意欲なので、もうプロットはできたようなもんです」(要約)
みたいな話は、思わず笑いながら読みました。
わかる、めっちゃわかる! ありがとう、そうやって物語を作っていいんだ、私は!
勿論、作る時に役立つ思考法も、たくさん載っていました!
「今までこういう風にしてた人は、改めてくださいね」という指導もありますが、全面的に作り手の心情に寄り添ってくれているので、素直にがんばってやってみようという気になります。
スクリプトドクターのカウンセリング
脚本家、映画監督の間で、脚本が行き詰まったり何が物足りないかわからなくなった時に、手直ししたり編集提案をするのが、「スクリプトドクター」というお仕事だそうです。
色んな要素を追加しまくったり、無理な継ぎ足しや変更のせいで、こんがらがってしまった脚本を、すっきりまとめるのが、お仕事だとか。
小説家の三浦しをんさんが、「脚本のお医者さん」と形容してらっしゃいますが、まさにそんな感じです。
実際に手がけたスクリプトドクターの仕事上での例や、講師として指導した生徒さんの実際の例も挙げられているので、普通に読み物としても興味深いです。
それから中級編では、実在の映画を一本挙げて、シナリオを診断・自分が治療するなら……の提案もしてくれています。構成を勉強している人にも、スクリプトドクターを目指している人にも、非常に良い勉強になります。
この本には技術的な指導はそう多くありません。
本を読み終わったからって、劇的に物語を作るのが上手くなったわけでもありません。
でも、いつも心に引っかかっていた「こうやって作ったんで、いいのかな」みたいな、妙な焦燥感がなくなります。
物語を作るうえでの心のノイズを取り除いてもらった気分になります。
本当にお医者さんのカウンセリングを受けたような感じです。
とてもわかりすく、かつ、物語を作る自分を勇気づけてくれるような本なので、文章を書く人にはおススメの一冊です。
ちなみに私は、これ読んでスランプ脱出した。