本屋で見かけて、表紙とタイトルに惹かれて手に取った、「オーリエラントの魔道師たち」。
あらすじを見ても、魔道とか闇とか孤独とか、ぱらぱらっと流し見しても、中世の異国を思わせるようなカタカナや、願いを叶える陶芸品、縫い付けた魔法のお守り、魔を操る写本師、復讐に身を焦がす魔道師なんかが出てきて、これは面白そう! とすぐさま試し買いをしました。
後から調べると、私が手にした(↑のやつ)のは「オーリエラント」シリーズの短編集で、4つの作品が収録されているとのこと。しかも、以前に出版された同名の短編集のうち、1編だけ別作品に差し替えられている文庫本だということでした。
1巻を読まなくてもまあ楽しめるんじゃないか、と楽観的に判断して、ひとまず短編集を読むことに。
- これが面白かった!!
- オーリエラントの歴史書
- 舞台になる場所と年代は、話によってバラバラ。
- 史実というか、その地方の伝記を読んでいるような感覚です。
- 本編も、1巻にひとつの物語が収録されているだけなので、ぶっちゃけどの巻から読んでも楽しめる!
- オーリエラントの魔道師の生き様
- 彼らが自分の試練や敵に相対した時、その苦難を乗り越えるために放つのは、呪文を諳んじたら杖の先から出てくる火の玉じゃないんです。
- オーリエラントに生きて死んでいく魔道師たちの人生と、彼らが紡ぐオーリエラントの歴史の一部を、一緒に追いかけるのが、このシリーズの楽しみ方!
- だから、出てくる魔道師1人をあげつらって、「ツンデレで超可愛かった!」とか「大体何やらせてもチート! マジイケメン!」みたいな感想にはなりません。
これが面白かった!!
すぐに文庫本化してる本編の3巻まで買って、一気に読みました!
オーリエラントの歴史書
舞台になる場所と年代は、話によってバラバラ。
とにかく、オーリエラントという地方(大陸?)で、イスリル帝国とコンスル国が長年せめぎ合いをしている世界。
そこには小さな部族や種族、違う神を信仰する異文化の民も様々いて、時代によって所属する国が違ったり、名前が変わったり、後年になればそれぞれの血が混じって別の民になっていたりする。
地域や時代によっては、魔道師が優遇されていることもあれば、恐れられて疑われるために身を隠さなければならないこともある。火山灰で病がちな人々の住む、綺麗な水が飲めない辺境の寒村もあれば、財を溜め込み規則にまみれたような、栄華を極めた国の中心地も。
人によったらくどいとも思えるような、煩雑で濃密な描写も相まって、「オーリエラント」シリーズは、オーリエラントの歴史書を紐解くような物語群!
史実というか、その地方の伝記を読んでいるような感覚です。
「空色勾玉」や「精霊の守り人」、それから「十二国記」の流れを汲むような、日本発の本格ファンタジーという評され方をしているみたいなので、この辺りが好きな方は、気に入ると思います。
私は上記の3作品は読んでませんけど、「ハリ―・ポッター」の魔法体系や世界観がとても好きで、あれにワクワクしたのと似た感覚だな! と思ったので、覚えのある人には是非おススメしたい!
短編集の4作品は、ひとつひとつが完全に独立している物語だから、本編を読んでいなくても、また、4作品のどれから読んでも、全然問題ないです。
本編も、1巻にひとつの物語が収録されているだけなので、ぶっちゃけどの巻から読んでも楽しめる!
主人公もバラバラです。
しかし、魔道師は長生きの人も多いので、時代をまたいで、物語をまたいで、その存在を匂わせてる人もいます。
というわけで、1巻から読んでると、「ああ、こいつ! この時代ではここにいたのか!」「この人は昔(前の巻)あの事件があったから、こう思ったんだろうな……」なんて箇所がところどころあるから、個人的には是非全部読んで頂きたい!
オーリエラントの魔道師の生き様
タイトルにも出てくるように、物語を引っ張っていくのは数多の魔道師たちです。
ただし、RPGによくあるような、杖から火の玉を打ち出すような魔法使いばかりじゃない(たまにそういう人もいるけど)(「たまに」の魔道師ザナザさんは、茶目っ気ある素敵なおじさまで可愛い)
紙に書かれた文字や図柄を媒介に魔法を発動させる、ギアスディン魔法を使う者。
鳥や獣に呼びかけ、魚や虫を操る、ウィダチスの魔法を使う者。
人や動物の血や骸を使って呪いをかける、プアダンの魔法を使う者。
衣服や紐、あるいは皿や器なんかの、ひとの生活に根ざしたものに力を宿すような魔法を使う人たちも。
ある程度体系化されてはいるけど、次から次へとバリエーションに富んだたくさんの魔道師が出てくる!
彼らが自分の試練や敵に相対した時、その苦難を乗り越えるために放つのは、呪文を諳んじたら杖の先から出てくる火の玉じゃないんです。
魔法の力に目覚めるのだって、誰かから魔法を受けた時とか、自分に属するもの(木や海や宝石や、時には闇だったりもする)に初めて接触した時とか、愛するものを失った時とか、もしくは仇敵に出会った時とか、人によって違う。
時には、その魔道師が自分の中に宿る力や使命に気づくところから、時には、既に長年歩んできた影の道にけりを付けるところを。
オーリエラントに生きて死んでいく魔道師たちの人生と、彼らが紡ぐオーリエラントの歴史の一部を、一緒に追いかけるのが、このシリーズの楽しみ方!
私の印象として、ラノベや漫画はキャラクターもの(キャラクターが良くも悪くも記号的で、際立った個性や強いアクを持っているから、読者がそのキャラクターのファンになったりする感じ)で、一般小説やファンタジーは世界観・ストーリーもの(キャラクターは日常の人間的で、善悪両面備え持っていて一言では説明しづらく、読者はキャラクター単体じゃなくて世界観やストーリーを楽しむ感じ)だと捉えています。
「オーリエラント」シリーズは完全に、後者のファンタジーもの。
だから、出てくる魔道師1人をあげつらって、「ツンデレで超可愛かった!」とか「大体何やらせてもチート! マジイケメン!」みたいな感想にはなりません。
どの人も、苦しいながらに奮闘するところは応援したくなるし、逆に悪いことをしかかっている時は、何で自分から苦しみにいくんだ……って切なくなったりします。
たくさんの女の痛みと恨みを背負って立った少年写本師。
半生を費やして得体の知れない木と対峙し続けた魔道師。
殺されても生まれ直し、血を分けた兄姉と戦い続けた少年。
みんなみんな愛おしいし、カッコイイし、残酷だし、強い人たちです。
個人的にはキアルス君とリンターさん激推しです。キアルス君はそろそろ幸せになってもいいはずだ、なってくれ。
ゲームでも漫画でも小説でも映画でも、ファンタジックな世界観と細やかな人間ドラマと重厚な描写が好きな人には、超おススメ!
短編集の1編だけ、電子書籍で売ってたりするので、これで試し読みしてみてもいいかもしれません。(画像貼れなかった、ごめんね)
「紐結びの魔道師」
1巻はこっち。
私は早く4巻が文庫化するのを待っている! ハードカバーはちょっと重いから、読むのが大変。