これはD&Dミリしら人間が映画を観てきた感想文です。ルルブどころかリプレイ動画とかもまともに見たことがなく、なんか全然見当違いの感想を抱いているかもしれないので、自己責任で読んでください。
映画の内容は全方位ネタバレします。
TRPG関係のフォロワーさんたちがD&Dを遊んでいるのを、「なんかすごそ~楽しそう~」と眺めていたんですけど、映画になるというので喜び勇んで観に行ってきました。
ソードワールドはちょこっとだけかじったことがあるんですが、D&Dは「もっと老舗の重厚ファンタジーTRPG?」というイメージしか持ってません。
そんな初見人間が、二時間半後に「D&D最高~~~~!!!!!!!!!」って満面の笑顔で映画館から出てきた感想文です。
【全体の感想】
D&D最高~~~~~~~~~!!!!!!!
いわゆる金ロー映えするご機嫌ファンタジームービーとしても、TRPGの1セッションのリプレイ動画としても、二重の意味で面白かった!!!!!!
普通に一本の映画として完成度が高い。満足度が高い。一方でなんか、こういうところTRPGのセッションっぽくも見えるな~みたいな設定や展開があって、二つの視点で楽しめました。
同日、スラムダンクの映画と二本立てで観てきたので、やはり日本の漫画・アニメとは違う、「ハリウッドしぐさ」的なつくりが多いな~という感じがありました。これは褒めてる。
これは私の個人的な感覚なんですけど、いわゆるハリウッド的な洋画は「勝利のカタルシス」にかなり比重を置いてるイメージです。シナリオの一本筋や緩急がすっきりしていて、常に展開が転がって次々難題が訪れて、そして最後はいかに絶望的な状況からやり返すか、みたいな。
D&Dはこの辺すごくよかったですね。
「アウトローたちの矜持が~」みたいな触れ込みだったけど、きちんと最後には、「よ~し、いっちょ世界、救っちゃいますか!」になるのが、一本の映画としても、GMが用意してくれたセッションに挑んでる感としても、とてもよかった。
金ローで放送されてみんなでTwitterでわいわい言いながら鑑賞する日が楽しみなので、頼むからそれまでTwitter君は生き残っててください。
【D&Dの細かい設定などはわからないので、ここ好きポイントの話】
・アウトローたちの誇り
はじめにこのD&Dの、「負け犬たちの一世一代の大勝負」構造の話をします。
主人公のエド君は、妻を失い、誇り高い仕事も捨て、可愛い娘との生活のために盗みを繰り返し、結局それが元で捕まり、娘すらも失ってるところからスタートします。明るく歌ってくれるとはいえ、「金もないし仕事もないから、昼間っから赤ら顔の仲間と酒酌み交わすしかねえ」みたいな自嘲気味な歌も十八番です。で、中盤でいろんな難題にぶち当たった後、「俺たちは負け犬だ!」と半泣きでぶちまけてくれるわけです。
私はこれとほぼまったく同じ構図のとある映画が大好きなんですけど、そっちの映画も同じように主人公が仲間たちにぶちまけるシーンがあります。
「俺たちは負け犬だ! だってそうだろ? 家族もいない、仕事もない、帰る家もない……。だけど神様ってやつは、そんな俺たちにチャンスをくれた」「チャンスって、何の?」「”守る”チャンスだ」
私は初見のときこのシーンがめちゃくちゃ嫌いでした。ヒーロー映画を観てるはずなのに、何でそんな消極的なんだよ~「取り戻すチャンス」とか「やり直すチャンス」くらい言えよ!と思ってました。
が、しばらく考えに考えて、負け犬を自称する人たちにとって、「守るチャンス」は本当に最初で最後唯一巡ってきたチャンスなんだな…と思うようになりました。
「取り戻す」って本来自分が手に入れるべきだったものに使う言葉だし(負け犬はそんな高望みは捨ててしまった人たちの自称だし)、もうすべて終わって負けたことを認めてる人間からすると「やり直し」は絶対的に不可能なことなんですよね。
だからエド君が、ほとんど強い言葉(ヒロイックで、味方を鼓舞するような、志の高い感じの言葉)を使わずに、「自分こそが妻を殺したんだ、自分の情けなさに辟易してる、これ以上(娘まで)奪われたくない、ここで逃げたらもう本当に何もなくなってしまう」と涙ながらに打ち明けて、同じ負け犬たちの心を動かすシーン、あまりにもあまりにも最高に「負け犬の(最後の矜持を)守るチャンス」の開幕シーンとして大好きでした。
また、この打ち明けシーンにたどり着くまでが、寄せ集めで何とか集まってくれた仲間たちの負け犬な部分をじわじわと描いてくれつつ……だったので、あの夜の浜辺でひっそり体を寄せ合うさまが、正に負け犬を象徴していて、胸を打つ情景だったんだよな……。本当にスペースが空いてたらサイモンも座ってくれたよ、エド。
お宝積んだ船を面舵一杯したエド君、もう負け犬なんかじゃなかったよ!!!
エド君パーティマジで好きだな~~~~~~~~~~~~~~~!
・清廉な騎士様と剣を捨てた負け犬
ゼンクさんさ~~~~~~~~~~~~反則じゃない???????????
cv.中村悠一まで含めて反則。
私は騎士大好きなオタクなので、エド君が過去回想で騎士の格好してるの最高に好きだし、妻を失って騎士であることを捨てたこともめちゃくちゃ好きなんですけど、そのエド君に清廉高潔、正義とそれに連なるものをすべて守ると誓った生粋の騎士ぶつけてくるの、シナリオが鬼じゃない????
エド君だってハーパーになったとき、奥さんと暮らし始めたときはきっとゼンクさんのようになることを志していたはずで、それが妻子を養うに足らないブラック企業社畜暮らしだったから破滅してしまったわけなのに、「ハーパーとして頑張り続けていればこうなったかもしれませんよ」な理想の騎士像ぶつけられたら、そりゃエド君も辟易するでしょ! はいはいあんたは偉いね俺と違ってちゃんと騎士やっててさ!!ってなる。(そしてゼンクさんはこれを嫌味と受け取らずに「ありがとう。だが自分を卑下してはいけない」とか言う)
でも結局ゼンクさんは家族もおらず、(信奉者や助けを求めてくれる人はいても)友人や並び立つ人はおらず、自分以外に自分が顧みないといけない相手がいないからこそ、あそこまで正義のために突き進めるわけで……これ以上ヒーローの孤独について話すと長くなるのでやめよう。
いやでも、ああいうバックボーンを持ってるエド君のキャラシー見て、ゼンクさんみたいなNPCをぶつけたくなるGMの気持ちはわかります。
ドラゴンから助けられた後の、「助かった、ありがとう」「いや。逆の立場なら、君だって助けただろ?」「……まあね!(声がひっくり返ってる)」のやり取り死ぬほど好き……。エド君、一生ゼンクさんから混じりけのない、君も一度はハーパーだった身なのだからね……という類の信頼の目を向けられて据わりの悪い思いをし続けて生きていってほしい。
・ホルガとドリックとサイモン
マジで最高の仲間。幸せに生きていってほしい。
私が生まれて初めてTRPGという遊びの存在を知ったのは、「フォーチュン・クエスト」というファンタジーラノベの本編で出てきたときです。「フォーチュン・クエスト」自体がTRPGのリプレイみたいな、結構メタ的な要素の多いファンタジーラノベなのですが、その中でも、「凶悪なダンジョンの凶悪なドラゴンがGMとして遊び相手を探していた」みたいなエピソードがあり、そこで私は生まれて初めてTRPGというものを知りました。
そのときに主人公パーティの盗賊少年が、筋力系メイス装備の僧侶(女)のキャラクターを作成するんですよ。まあ全方位から「自分は男なのに女子キャラ作るの!?」「僧侶なのに筋力にステ振りしてメイスで前線張るのはやりすぎ!」みたいなツッコミを受けるんですが、「ゲームのルールに則ってりゃ自由だろ!」という旨の反論をして、結局それが通るんですよね。
私のTRPG観は割とこれが根幹にあって、「ちゃんとルールに即していれば、現実の肉体や精神や立場や性別など関係なく、どんなキャラクターにもなれる遊び」というイメージが強いです。
ホルガとドリックとサイモンのキャラ造形はものすごく私のこのTRPG観にマッチしてて、とても好感が持てました。
前線張るパワータイプの女戦士がいていいし、部族追い出されたとか元パートナーに未練タラタラみたいなエンタメ作品では男性にありがちな設定を女性が持ってていいし、ちゃんとステ振りして魔法も習得できてるのに自分に自信がないから上手く魔法が使えない魔法使いもいていいし、人間に捨てられた混血児なんて現実じゃ経験できない生い立ちでもいいし。勿論、騎士の誓いを捨てた吟遊詩人みたいな盗賊がいたっていい。
普通にファンタジー映画のキャラ造形としてもすごく好きだし、ポリコレ的側面から見ればそういう風に肯定される設定でもあるんでしょうけど、何より純粋にD&D、ひいてはTRPGを好きなPLが出してきたキャラシーだよって言われたら「あ~!いいね!!」ってなる感じのキャラクターたちであることが、何をおいても好きですね。
・シナリオ展開とビジュアル面
もう全部最高。何も言うことない。お宝ばら撒いて避難誘導兼ねてるの天才過ぎて映画館で拍手しそうになった。ヴィランたちの造形もいい。マジで文句ない。
本当にD&D知らなくても普通に全編するっとまるっと楽しめたんですけど、一個だけわかんなかったのは、迷路脱出の方法があの謎のゼリーを通り抜ける(?)手法だったこと。
あれだけ全然意味がわからなかったので、識者の解説を探しにインターネットの海に出ます。
2023.4.17追記
優しい皆様が教えてくださって、「あの迷路は一定時間(合図に銅鑼が鳴る)で外周が闘技場の地下に格納されていくギミック。ドリックは①闘技場の地下には船着き場やお宝保管庫があること②ゼリーの中で溶かされるには少し猶予があること(外部の協力があれば、溶ける前に抜け出せること)を知っていたので、ゼリーが地下に格納されるギリギリに飛び込んで(蛇になってゼリーの影響を受けずに先に脱出してみんなをゼリーから助け出して)迷路から脱出する案を思いついた」ということを理解しました!
D&Dの設定知らんでもわかる! ただの私の読解力不足! 教えてくださった皆様ありがとうございます!
・モンスターとか、たぶんD&Dに設定のある要素
あのもちぷよドラゴンなんですか!?!?!?!?!?めちゃくちゃ可愛かった……!!!!
あと脳みそに足が生えて歩いてるみたいなやつすげー好き。知性が高い生物を襲う生物にスルーされるエド君パーティ最高に好き。
あとレッドウィザードとか招きの死とかの造形や演出めちゃくちゃよかったな~~~~~~~~最高ファンタジーだった……何度思い出しても本当にいい……。
街の名前とかアイテムの名前とか、敵組織についてとか、なんか色々設定がわかってればもっと楽しかったんでしょうけど、わからなくても全方位楽しめました!
あと、ハーパーはちゃんと騎士たちに固定給払ってあげてください。かしこ。
・天丼が効いてる
私が洋画が好きなのは、天丼的な要素が効いてることが多いからです。邦画はあんまりあれやってくんなくて、物足りない。
お酒酌み交わそうの歌といい、ジャーナさんを使って脱獄試みることといい、天丼的な演出がマジでめちゃくちゃ気持ちよく効いてる。最高。拍手喝采。
個人的にD&Dで一番好きだったのは、「サイモンに魔法でどうにかしてって無茶ぶりする」の天丼です。
随所で「魔法で金払っておいて」とかギャグ調に、何度も何度もやってきたトドメに、ホルガの死に際してエド君が「サイモン来てくれ!魔法でどうにかしてくれよ!」と言うのがもう、ボディブローのように効いた。
それまでは、ま~たサイモンが怒ったり呆れたりするようなこと言ってる!(笑)で済んでたのが、息絶えるホルガを前にしたエド君の発言でうわっ……となり、いつも怒ったり呆れたりしてくれてたサイモンが血の気の引いた顔で、「レッドウィザードの短剣は、魔法じゃどうにもできないんだ……」と静かに告げるのがもう、内臓引き絞られる思いだったよ……。
たまんなかったですね、あの演出は……。
魔法は万能じゃないんだよ、ってサイモンが繰り返し言ってたことが重くのしかかるし、実際TRPGや多くのゲームにおいて「魔法使いの魔法」というのはそこまで万能ではないというのがきちんと提示されていて、色んな意味でこのキーワードの使い方が好きでしたね……。
・キーラもパーティの一員
個人的に、最後の作戦でキーラがキーパーソン担ってたのもめちゃくちゃ好きでした。
TRPGセッションで、PCたちが諦めずにNPC救出に成功したから、ラストバトルでボーナス要素として入ってくれた感じがマジで最高だった。PL/PCたちががんばったご褒美感。
あとこれは負け犬構造にかかってくる話なんですが、キーラ視点だと彼女も「父に言われるがままに留守番をしてたら置き去りにされ、悪巧みする大人にいいように消費される負け犬」になってしまっていたんですよね。子供だから仕方ないというところもあるんですけど、一応盗賊団の一員だったのに、自分で選んだことではなく大人から強制されたことで色んなものを失くしてしまった、自分で選んで決めるチャンスすらも取り上げられた負け犬。
だから、今度は彼女も世界を救う戦いに参加して、負け犬返上するチャンスをつかめたことも、すごく嬉しかったな~!
・終わりの演出
みんな街を救った英雄として叙勲されてましたけど、その後のみんなの足取りって特に描かれていないんですよね。
英雄としてちやほやされた結果天狗になってやっぱり身を持ち崩しましたとか、詐欺師や盗賊から足を洗ってまっとうに働いてますとか。そういうの一切ない。
なぜか?
だってGMがセッションのゴールとして用意してたのは「街を救った英雄として叙勲される」までで、他の彼らの足取りは、PLが感想戦で語ったり、次のセッションの冒頭で今はこうやって暮らしてますと語るところだから!
TRPGの実写映画化として、この終わりの余白の残し方が一番ぐっときました私は。
あと、日本公開版主題歌であるMAZZELの「MISSION」、音楽としてもめちゃくちゃいいけど、歌詞がマジで負け犬たちの一世一代の大勝負の曲なので、正当に正しくエド君パーティの応援ソングという感じで、めっっっっっちゃいい……。繰り返しずっと聴いて、映画の良さを反芻しています。
【総評】
GM! エド君パーティの次の冒険はいつですか? 観戦させてください。
ゼンクさんにそそのかされてハーパーに戻ったエド君の冒険とかめっちゃ見たいですけど、吟遊詩人くずれの盗賊みたいな生活してるエド君あまりにも好きなので、またあのパーティが観れるならなんでもいいです。
本当に、TRPGリプレイとしても、普通に一本の映画としても最高だった。あと100億回観たい。
【余談】
「守るチャンス」の演説シーンが気になる方は、mcuの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を観てください。
独身で宇宙海賊(ガンマン)になったエド君こと、スター・ロード君の負け犬っぷりが観れます。
エド君は歌を武器に敵の気を引いたりしてましたが、スター・ロード君の方は宇宙を崩壊させようと目論むラスボス相手に、ダンスバトルで挑みます。
あと、cv.中村悠一のクソ真面目正義のヒーロー大好きな人は、mcuの「キャプテン・アメリカ」を観てください。
これもう実質新しいmcuじゃね???????????
フェーズ4でエド君パーティがアベンジャーズに合流しても全然違和感ないよ。っていうくらいには、ヒロイックで最高にご機嫌でハッピーな映画でしたね。